忘れられない人   

2012年 05月 23日





私は好きな男の匂いは息が切れるまで嗅ぎたい

と思っている犬系女であります。

だからそのときつきあっている男の匂いは、

全身全霊で記憶する。



その人と会えないときも、

キールのシェービングローションの香りや、

マルボロの匂いや、

彼が好きなボンベイ・サファイヤの

ジンの香りなんかを嗅いでは、

胸をキューンとさせることに

至上の喜びを感じたりする、

ちょっとヘンタイチックな女です。



何年か前、記録的な雪が降った真冬のボストンの、

リッツ・カールトンのバーで、

一緒にマティーニを飲んだ、

ボーイフレンドのジャケットの匂いも忘れられない。



外に出ると、ボストンコモン(ボストンの公園)が

一面の銀世界に変わっていた。

ホテルを出て、

アーリントンストリートを、

車をパークさせた場所まで歩く間

彼は自分の着ていたツイードのジャケットを

私にかけてくれた。

そのとき、はじめて彼の匂いを知った。



事情があって、もうその人とは2度と会えないと

わかっていたから、つらかった。

いまも大雪の降るボストンの町を歩くたび、葉巻と夜と

雪の混じった彼の体臭を思い出して、切なくなる。



でも記憶に刻印されたかのように思えた匂いも

いつか風化することもあるし、

その人が嫌いになると、その匂いも跡形もなく

消滅するから不思議です。



だけど、いつもどんなときにも、

胸が痛くなるほどなつかしく思い出す

男の匂いがある。



巨人の長嶋が好きで、

太宰治を愛し、

早大のラガーマンだったその人は、

メロメロに私を愛していた。



その人の膝の上に座ると、

缶のピースの匂いとお風呂上りのロジェ・エ・ガレの

石鹸の匂いと、加茂鶴の樽酒の匂いがした。



巨人のナイター中継をその人と一緒に見ながら、

このわたや、数の子、カラスミや鯨の尾の身といった

彼の好物の酒の肴をときどきもらったりして、

私は、なんておいしいんだろうと思っていた。



十年前に亡くなったその人の供養は

ほとんどしていない薄情な私だけど、

いまもこのわたや筋子なんかを食べるたび、

私の父、その人の匂いをまるで昨日のことのように

思い出す。

だから少々親不孝でも、

天国のパパはきっと許してくれると思うんだ。







今日は彼のお誕生日だったことをふと、思い出して、

以前、UPしたものですが、

また掲載してみましたー。きゃん。

by madamregina | 2012-05-23 16:39 | Diary