London野戦病院のプライド   

2015年 04月 18日
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先日の、ケガにまつわる真相すべて書きました。

ごっつい長文です。

でも、最後まで読んでみて(笑)




いや、しかし、改めて今回、おいらの旅先のロンドンでの大怪我について(と言っていいかわかりかねるけど…大袈裟?)考えてみた(笑)


このアクシデントが不幸だったのは、日本じゃなくロンドンだったこと。


しかも英国唯一のロイヤルワラント(王室御用達)のホテル、

The Ritzの華麗なるダイニングルームで起こった災難、と言うところにある。

なぜなら、あれがもし普通のお店なら、
私、あんな感じで急に気分悪くなったら、

店内の床にでも寝転がったていた、と思うんよね。

誰に気遣うことなく。

NYのBouleyでも、何度も気分悪くなり、
地下のソファでよく寝転んでました…



しかし、The Ritzの気品に溢れた絢爛豪華な空間で、それが出来ませんでした。


周りにはなんだかロイヤルファミリー風の紳士や淑女がエレガントに食事されており、
そこへ、無様な東洋女が、万一吐いたり、テーブルに突っ伏したりするなんて、言語道断!


神が許さない!


ぐらいに思ってたところに、わしの不幸があったんですね(笑)


で、あっしは、あのときとにかく、


これはやばい、かなりやばいぞ、と、思ったんです。

でー、そのとき一緒にいた、お友達のしおりちゃんには申し訳ないけど
「あ、ちょっとしんどいので、
いますぐ、スイートのお部屋に戻ってベッドに横にならなければ…」


と、立ち上がって、数歩歩いたところで、

次に気がついたときには、

なぜか床に寝転び、ダイニングのゴージャスなだまし絵がわしの目に写った。


髪の毛はざんばらw.


レストランのマネージャーや、

気取って食事していた紳士たちが、全員見守るように、

心配気に私を上から見ていたわけであります。


こんなシチュエーション、映画でしか知らないよね。


足を上げてくれている人もいましたw

頭に血が行くように?


そして、セキュリティがすぐ到着して、ひょいと私を抱きかかえて、レストランからウェイティングルームのソファに寝かせてくれ、

その間にホテルのマネージャーたちが、

救急車を手配して、

あっと言う間にロンドンアンビランス到着っ。
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その間10分ぐらいだったんじゃないだろうか…

アンビランスのイケメンたちが、

血圧測ったりいろいろ調べてくれて、救急車に乗車。


頼もしいわ。


そこまでは、良かった。

記念に写真ぐらい撮っておこうかしら・・

という軽い気分でしたから。


問題は、そこから。

そうよ!



運ばれたロンドン大学のエマージェンシーホスピタルでの悪夢の7時間よっ。




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そこは、いわゆる悪名高き、イギリスの公共の病院。


エマージェンシーで運ばれたにもかかわらず、

私が実際ドクターに診てもらうまで、2時間かかりました。

おーまいがー。


その間、血液検査などもしてくれたが、とにかく、びっくりするぐらいの救急患者が続々訪れるんである。


ケンカ。

階段から転げ落ちました・・・とか。


心臓発作で運ばれてくるおばあちゃん。


目に傷を負ったマダム。

もう、まったく、あの『ER』の物語の世界よ。


わたしが倒れた日は、

ちょうどヨーロッパではイースターのホリデーシーズンで、

ま、日本のお盆みたいなもん。

ドクターの人数が極端に少なく、

患者ばかりがどんどん増える…と言うような、

さらに絶望的な状況っす。


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私はしかし。


まだ希望を持っていた。このときまでは・・。


下唇の中はかなりえぐく切れてるけど、

口の中はすぐ治ると聞くし、

鏡を見たら顎の傷は大したことなさそうだし、

縫わずに帰れる…とばかり思ってました。

ところが…ようやくドクターがやって来て(若いインターンのような女医さんです)


「私はぜったい、縫いたくない(こんな野戦病院で万一縫合手術などするなら、死んだほうがマシ。いや自決した方がマシ)」
と、懇願いたしましたよ。


このドクター、
誰に対しても、ほんとに愛のある接し方で、

このクソ忙しいときに、なんておだやかで思いやりのあるドクターなんだろう…と、

思っていましたが、
私を見て、こう言いました。


「あのね、いまから、素晴らしい女医さんがあなたの傷をぬってくれます。
彼女の腕はピカイチ。ベスト!
ぜったい綺麗に縫ってくれるから、心配しなくていいよ」



えええーーーっ。

嘘やろ⁉️


嘘と言ってー。




がーんがーんがーん


一貫の終わりやー。


人生最大のナイトメアー勃発。



もう、夜中の1時ごろで頭が朦朧とする中、

目の前、真っ黒。いや真っ白。

またもや失神しそうなほどの大ショック。


心臓に大きな穴が空いたみたいに、わたくし、呼吸困難です。


医龍の朝田—————今度こそ、ヘリで来てくれーーー。


要酸素吸入!バチスタ手術やってくれーーー。




はーーーーっはーーーーーーーーっはーーーーーっ。

もはや大パニック!心臓に血が逆流する中、

叫びたい気持をなんとか押さえて、

わしや、冷静に考えた。

そうや。


ここからとんづらしよう。


こんな野戦病院で縫合手術なんて受けたら、

一生傷が残るかもしれん。

もう、それなら自分でホチキスでとめた方がマシだろーー
ぐらいの勢いで、

とにかく「とんづら作戦」をどうやって決行するかを

働かない頭で死ぬほど考えていたら、

車椅子を押すお世話係の方が到着。


わしは、とんづらの機会を失い、

その車椅子で、

トリートメントルーム(手術室よっ)

まで連れて行かれました。



ちゃんと患者の世話をする、係りの方がいるんですね。

親切です!


いやそんなこと、言ッてる場合やないっ。


トリートメントルームのドアの前で私ひとりになったとき、

私は、再び、とんづら作戦を企てようとしました。


そのとき!


何やら頭にターバンを巻いたドクターか看護師か、

ホームレスかわかんないぐらい、

なんだか清潔感のない頼りない若い女性が、

力なく歩いている姿を発見。


まさか、まさか、このやばそうな人じゃないよね?


私を手術してくれるのは…

そんなわけないよね。



おかーさーんーーーーーーーーーーーーっつっつっつ


それより、この隙にダッシュだー、

と思った瞬間、

ターバンの彼女が、わしの前に来ました(万事休す)


彼女はわたしの眼を力なくみつめて、こう言いました。


「あなたには2つのチョイスがある。

縫う糸なんだけど、内側は抜糸する必要のない透明の糸で縫います。

問題は外側。コスメティック的に気にするなら(当たり前だろーーー)

この糸ではなく、ブルーの糸を使ったほうがいい。

でも、抜糸の必要がある」




と聞き、絶望の淵、ズンドコに叩き落とされながらも、

わしはもう一度もがいてみた。


「あのーーー縫わないってチョイスはないっすか?」




すると、即効でこう返答。


「だって、あなたの唇スルーなんだよ」


スルーーーーーっ?





スルーっ?


えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。


貫通してるって意味すか?

顎と口の中を別々に怪我しているばかりと思ってたのに、
ま、ま、まさかのスルー。
ひーっ。


もはや血圧160000に上昇。

瞳孔開きまくり。


おらあ。おらあ。

どうすりゃいいのーーーー?!


そこでわしは30秒ほど考えた。

抜糸をするって、もう、面倒やん(そこっ?!)


いっそ、溶ける糸でやってもらう?


ちょっとぐらい傷がでかくなっても・・

と考えつつも、


いやいや。やっぱり少しでも傷跡がわからないようにしなければ・・

とようやく少し冷静になり、

おらぁ、アラブ女史にこう言いましたよ。


「ブルーの糸でおねげーします」 



すると、OKとこれまた力なくうなづいたドクターに押されて、

手術室へ。

おおおおお、ここ、ここはどこ?


アフリカのテントの方がまだましかってほど、

簡素極まりなく

なんだか設備だって最小限な感じで、

こんなところで人生最大の手術をしてもらう自分の身を案じて、
わたしゃ泣きたい気持だったけど、

もう崖っぷちから蹴落とされ、奈落の底に落ちたんだから、

恐いもんはないよっ。

覚悟は決まった。



いや、恐いもんがまだありました。


そうよ。痛みよっ。



唇を縫うってほえええええーー。


顔に針をさすって・・・・(卒倒)


わたしは恐怖でもつれる舌で、

アラブ医師に伝えましたよ。


ノーペイン!ノーペイン!


えとえっと、麻酔してね。



麻酔って英語でなんだっけ?


出てこないーーーー(マジかっ)

そこでわたしは決死の覚悟で、

右手で注射器を口に指すジェスチャーをしますた。


するとアラブは冷静な声で


「あ、インジェクションね!」


そうよーーーーー



インジェクショーーーーーンっ!!!!!!!




とわしはホスピタル中に響き渡るような力強い声で、

インジェクションを連発。


あ、その前にしびれる液体、液体、液体・・・


と言ってもまったく聞いてくれませんなんだ。


で、あくまで冷静なアラブは、


わたしの動揺におかまいなく、仕事開始。


「まずは唇の内側がから縫っていくね。

これがその糸よ」


と白い糸を見せてくれた。

そんなん見たって仕方ないんですけど・・・


で、とうとう、その時は来た・・・


そうよ。やわらかな唇の内側に

インジェクションを指すギロチンのときが・・・

でもでも、あれ??あれれ?

最初にちくっとはしたものの、ぜんぜん痛くないんだけど・・


どうなってるの?

なにやら縫っている様子。


でも、もう麻酔が効いているのか痛くない。


次はいよいよ、顎ですよ。顔ですよ。みなさんっ。


おおお~~~—神様——————


次の糸、見せてくれー


と思ったけど、アラブは今度は糸の披露をはしょった(えーーーー)


そこ、いちばん、見たいとこやったやんかーーーっ。


で、再びインジェクションのときがーーー。




今度はアゴよアゴ。


でも、これまたちくっとしたっきりで、

最初に下唇内側に麻酔されたからか、

ほとんど痛みなし。


しかし、アラブが縫いはじめたときに

「痛い?」


と聞いたので痛くなかったけど、

今後痛みが襲ってくるおそれがあるな・・・と判断したわたしは、


「インジェクション!インジェクショーーーーん!!!!!」


と再び、発声。


そして、あっという間に、縫合手術終了。



『松澤ロンドンエマージェンシーホスピタルで地獄絵図の巻』

は、あっという間の10分。

ようやくほっとしたわたしは、アラブに尋ねました。


「あのーーー何針縫ったの?」


「ああ、よく覚えてないわ」


ぎょええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

よく覚えてないわ!


よく覚えてないわ!




こちとら一世一代の、顔面縫合手術なんだよーーー。


何針かってわかんないってどういうこと?


でも、なんだか憎めないアラブ。

わたしはトリートメントルームを後にするとき、

はじめてプライベートな質問をしてみました。


「あなた、おいくつ?」


「30歳よ」


「若く見えるね」

と答えると、


とこれまたテンション低めの声で一言。

「Thank you 」


いや、どこまでも渋い、必殺仕事人アラブであった・・・・




あ、これでようやく縫合手術も終わって、


やっとあのリッツの麗しいベッドで眠れるわね・・


と思っていたら、最初にみてくれた先生がやってきて、


「頭のCT取ります」



え?夜中のこんな時間に?

わたしはすかさず言いました。

「すいませんっ。明日改めて来ますので、今日はもう帰りたいんですけど」


すると、ドクターは珍しく激しい声で、


「脳の検査をしないで、あなたをそのまま帰すことなんて、できないわ。

あなた、失神したのよ。それがもし脳に原因があったら、大変なことなのよ」


と。


やれやれ。


それで仕方なく、縫合手術のあとすぐにCTへ。


終わったあと、


あああ、これで今度こそ、ようやく帰れる!と

担当のドクターにありがとう・・・と伝えると、

「ノーノー、あなたはまだ帰れないの。

CTの検査結果が出るまであと1時間待ってね」


マジか?


もう、ええ加減にしてくれーーー。


「明日の朝、検査結果聞きにきます。

今日はもう帰らないとわたし死ぬわ」


と泣きつきました。

が。



「検査結果も出ないのに、あなたをかえすことなんて出来ないわ」
と。


お願い。もう、わしはどうなってもいいから、


とにかくここから出してくれーーー。


そんな願いも虚しく、待ちましたよ。


想像通り、1時間じゃなく、1時間40分!


結果が出るのが遅いので、もう脳腫瘍とか見つかったのか?


と思いつつも、もはや脳の恐怖レベルはすでにマックス以上をさしてしまったので、

意外に冷静でした。


結果的にはブレインはノープロブレムだったけど、

結局わたしが愛しのリッツに帰ったのは、

朝方の5時です。


治療費、手術費、お薬代、全部無料。

イギリスはアクシデントの場合、


海外からの旅行者でも、治療費はすべて無料。


いやでも、わたし100万払っても、1時間ですませてほしかったよ。

(アメックスの海外保険は300万まで出ますからw)


もはや大怪我をしたことより、縫合手術をしたことより、

この7時間の野戦病院での待ち時間がいっちばんしんどかった。


なにせ、お洋服はレストランに行ったときのまんま。

レジィーナロマンティコのオールインワン。

肩寒い。


CHANELのバッグも持ってます。

毛皮のストールもありましたが、寒い。

そんな格好で野戦病院に7時間。


人生最悪の日であったことは間違いない!


でも、ほんとうの地獄はそのあとからあったのよ。


と言いますのも。



縫合手術に関して、何の知識もないわたし。

なんとかうまく縫ってくれたんだと思ってた。

しかし日本の知り合いの某ドクターに縫合後の写真を送ると、


「あまりうまい縫い方だとは思いません。たぶん、

縫い直しが必要になると思います。
まぁ、縫い跡は人によってはきれいに治る場合もありますけど・・」

と言われて、がーんがーんがーん。


またもやマッターホルンから三輪車で転げ落ちた気分。


それで、抜糸の日数もめっちゃ悩みました。

野戦病院では、きっちり7日後に来なさいと。


でも、またあの野戦病院の門をくぐった日には5時間ぐらい平気で待たされそう。


なので、わたしは日本在住の某女医さんに相談をして、

帰国した日のその足で、彼女のクリニックで抜糸をしてもらうことを決意。


で、無事抜糸終了。


インジェクション5本ぐらい打ってもらって、

その前にしびれる液体もぬりぬりしてくださいね・・

とお願いしましたが、


「麻酔の方が痛いですよ。抜糸はあっという間ですから」


と言われて、ガビンチョ。



でも、ほんっとにあっという間にまったくの痛みもなく取れたのでした。


だけどこの時点でわたしはまだ自分の抜糸後の傷跡を見ることが、出来なかったのです。


恐くて・・・。


万一リアルに見てしまったら、

そのアグリーさに自殺でもしかねないんじゃないかと(´;ω;`)

そこからまだまだ恐怖が続くんです。


と言いますのも、私の友人で同じく唇あたりを大怪我して、


私以上に縫った人がいらっしゃって、

その方の同意を得て、お写真を送ってもらったんです。


そしたら!


なんと、その人の縫い跡が、めちゃくちゃ整然としていて、

糸が死ぬほど細くて、
とにかく超繊細だったんです。


わたしのは・・・というと、


野戦病院アラブ女史の縫合手術は、超アバウト。



さらに、いちばん恐怖で引きつったのは、

糸の太さです。


友達の彼女の糸がほっそい細いのに比べて、

野戦病院のは、その10倍。


もはや縄やん。


激しくショックを受けたわたしは、ほぼ睡眠も取れず、

恐怖におののきながら、

でも、いつかこの傷跡を自分で見ないと、なにもはじまらん!と

とうとう、昨日の朝、

こっそりテープをはがし、

見てみました。


もう、そのときは心臓、飛び出てました。口から。


おそるおそる、震える指で鏡を持って見ると・・


えっ?!

傷、どこ?


ってほど、ほとんど跡が残ってなかったんでありますっ。


え?わたしアラブに縄糸で縫われたはずなんだけど・・


糸の跡がほとんどないんだけど・・


じーっくりじっくり見ても、ちょっと赤くはなってるけど、

ほとんどわかりません。


あとでいろいろ調べると、

抜糸後3ヶ月ぐらいかけて、形や色も変化していくらしいので、

なんとも言えませんが、

そこまでひどくなる・・とはあまり考えにくい、きれいな縫い跡でした。


いやあ。アラブ、ごめん。


そうだったのか?!




で、そのことを同じく若い頃おでこに傷を負い、
縫った経験のある、某女史にお話したところ。


「野戦病院こそ、腕の立つドクターがたくさんいるはず。

みんな数こなしてるから、百戦練磨。

特にアラブなんかから来てるドクターは優秀だろうし、ぜったい手術も早かったはず。

手早いってめちゃ技術が高い証拠ですよ。

松澤さん、ラッキーだったんですよ」


と、言われて、なるほど!とはじめてあの野戦病院が、

なんだかフォーシーズンホテルやリッツみたいに光り輝いて見えました。


あとで他の知り合いのドクターにも同じ話をしていると、

「イギリスのパブリックの病院は良くないと噂されるけど、

無料だからこそ、医師も平等だし、

あらゆるケースの患者を見るから、腕が磨かれます」


これ、100%そうじゃなくても、

少しはあるんじゃないか・・・と、

あのアラブの仕事ぶりを見て、思いました。


野戦病院の誇り、恐るべし〜。


そして、最初に書いた、The Ritzだったからの不幸は、

実はその逆でもあった・・・と改めて思ったんだけど、

確かに気を失ったのは災難だった。悪夢だった。


でも、あとで写真を見たら、リッツのレストランの床には絨毯が敷かれていたんです。

わたしはあのとき、顔面で顎からダイブしたはずなんだけど、

どうして顎や鼻の骨や歯が折れなかったのか・・・

と不思議だったんですが、

それは大理石やフローリングや、コンクリートじゃなくて、

絨毯だったことも幸いしたんですね。



相方から

「やっぱり悪運の強いやつや」

とお墨付きいただきました。


合掌。






by madamregina | 2015-04-18 02:26 | London